科学研究費基盤研究(B) 現代行政の多様な展開と行政訴訟制度改革 の研究成果を公開しています。

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現代行政の多様な展開と行政訴訟制度改革

研究代表者:村上裕章(九州大学大学院法学研究院)

団体訴訟の制度設計

2014年7月26日(土)14時から18時まで,九州大学西新プラザにおいて,公開シンポジウム「団体訴訟の制度設計」を開催した。

はじめに,主宰の科研基盤Bの研究代表者である村上裕章九州大学大学院法学研究院教授から,本科研の研究目標・研究の具体的な進め方,本シンポジウムの狙いについて簡単な説明があった。

シンポジウムの模様次に,神戸大学大学院法学研究科の島村健教授から「環境法における団体訴訟」と題するご報告があった。環境法における団体訴訟を,帰結主義によるのではなく規範的に正統化する方法として,利益の性格への注目と,首尾一貫性のアプローチとが挙げられ,それぞれについて消費者利益との比較を踏まえて,団体訴訟の基礎理論の構築と,環境法における具体的制度設計の展望が示された。

さらに,東京大学大学院法学政治学研究科の斎藤誠教授から,「消費者法における団体訴訟──制度設計の考慮要素について」と題するご報告があった。斎藤先生のこれまでのご研究との接点を確認しながら,行政訴訟の参照対象の偏りを是正する必要性や,私訴との調整の問題が論じられ,さらに具体的な制度設計として民事差止請求権による構成との調整の問題が扱われた。

シンポジウムの模様休憩をはさんで,報告に対する2本のコメントが寄せられた。まず,東京大学大学院法学政治学研究科の宇賀克也教授から,団体訴訟を論じる前提としての行訴法9条2項の現状が指摘され,とりわけ主婦連ジュース訴訟のような事件で民事差止と行政処分とをどのように調整するかが課題となることが指摘された。また,団体訴訟の設計に当たっては,団体訴訟を適法性確保のための補完的手段と位置付ければ,代表民主政との緊張関係はクリアできることが示された。

次に,京都大学大学院法学研究科の原田大樹教授から,団体訴訟の理論的基礎付けの問題と制度設計の問題に関して2報告が指摘した論点の整理と,新たな類型論の提示による団体訴訟の制度設計論の活性化の方向性が示された。この枠組を用いて具体的な制度設計を検討する素材として,特定商取引法における団体訴訟の設計が扱われた。

さらに,東京大学大学院法学政治学研究科の山本隆司教授から,団体訴訟と法治国原理との関係,利益構造への着目と制度設計論への反映のあり方,行政主体による訴訟提起との関係の調整に関する論点が指摘された。これらのコメントに対して,島村教授・斎藤教授からの応答があり,その後フロアとの議論が行われた。

議論の中では,利益の性格とその法的な処理の方向性(少額被害に対する行政法上の手段の現状),万人原則による正統化の憲法上の根拠,団体訴訟において団体が正統化される必要性の根拠の問題,団体訴訟の設計における主張制限・判決効の問題などが取り上げられ,活発な議論が行われた。