科学研究費基盤研究(B) 現代行政の多様な展開と行政訴訟制度改革 の研究成果を公開しています。

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現代行政の多様な展開と行政訴訟制度改革

研究代表者:村上裕章(九州大学大学院法学研究院)

研究成果

本科研の最終成果に関する研究成果報告書を掲載しました。

判例研究

2016年2月13日16時から,九州大学大学院法学研究院・大会議室において,田中晶国弁護士による最判平成27年6月12日民集69巻4号1121頁(信義則に係る上告受理申立て理由を排除,匿名組合契約に基づき匿名組合員が受ける利益の分配と所得区分の基準,航空機リース事業に出資した匿名組合員が不動産所得に係るものとして所得税の申告をしたことについて国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるとされた事例)に関する研究報告が行われた。同報告においては,事案の概要と判旨を紹介した上で,同判決における通達の解釈の当否と,信義則に係る上告理由が排除されたことの意味を中心に,検討がなされた。

公益と私益

研究会の様子2016年1月30日17時から,九州大学大学院法学研究院・第1研究会室において,関西学院大学法科大学院教授の曽和俊文教授による「公益と私益:補遺」と題する研究報告が行われた。

同報告は,芝池義一先生古稀記念論文集に掲載予定の論文「公益と私益」を踏まえたものであり,同論文を執筆した背景や問題意識が明らかにされた上で,民商法雑誌148巻6号で特集された中間的利益論と,本研究の成果として論究ジュリスト12号に掲載された団体訴訟論を中心的な素材として,曽和教授の三極構造論の立場から「公益と私益」について検討を加えた旨が述べられ,今後に残された課題が指摘された。

2014年度研究成果

研究成果の部分に2014年度の内容を追加しました。科研の報告書をベースとしていますが,著書と雑誌論文はまとめて公表業績として挙げています。

知的成果物の多様性を実現するための法の役割

4月18日(土)16時から,九州大学大学院法学研究院・大会議室において,九州大学大学院法学研究院の小島立准教授による「知的成果物の多様性を実現するための法の役割――知的成果物の創出,媒介および享受に関係する「コミュニティ」と,そこでの「慣習」や「規範」のあり方について」と題する報告が行われた。
同報告では,多様な知的成果物が生み出され,世の中に送り出され,享受される環境(知的成果物の多様性)を実現するために,知的財産法はいかなる役割を果たすべきか,という観点から,知的財産法は,知的成果物の多様性にどのように関わっているか,知的成果物の多様性を実現するために,知的成果物の創出,媒介および享受に関連する「コミュニティ」の「規範」や「慣習」の果たす役割について,知的財産法としてどのように向き合うべきかが論じられた。

グローバル化と行政救済制度

9月16日(火)17時から,九州大学大学院法学研究院・第2研究会室において,京都大学大学院法学研究科の原田大樹教授による「グローバル化と行政救済制度」と題する報告が行われた。

同報告では,近時急速な制度化が見られる投資協定仲裁と,租税条約に基づく仲裁を素材に,行政救済制度の文脈でグローバル化の影響がどのように出始めているか,その分析の際にはどのようなことが論点となりうるかが扱われた。

司法制度改革後における行政法判例の展開

2014年9月6日,九州大学大学院法学研究院大会議室において,九州公法判 例研究会との共催により,本科研の第6回研究会が開催された。今回は,本科研の研究代表者である村上裕章(九州大学大学院法学研究院教授)が,「司法制度改革後における行政法判例の展開――理論の過剰と過少」と題する報告を行った(公法学会のプレ報告を兼ねる)。

同報告は3部からなり,第1部「行政法判例の展開――戦後行政法判例の時期区分(試論)」においては,「司法の行政に対するチェック機能に対する積極性」という視点から,戦後の行政法判例を,①百花繚乱期(1945年~1970年代),②学説との乖離期(1970年代~2000年頃),③学説との協働期?(2000年頃~)に時期区分し,それぞれの時期の特色とその要因が検討された。

第2部「理論の過剰」においては,部分開示,行政主体による訴訟の提起,抗告訴訟の観念,原告適格に関する判例について,誤った理論に基づくものであり,判例の変更が必要ではないかとの問題提起がなされた。

第3部「理論の過少」においては,法規命令と行政規則,判断過程審査,処分性,国家賠償訴訟における違法性に関する判例を素材として,理論的な根拠付けの必要とその方向性が提示された。

以上の報告に基づいて質疑が行われ,判例の時期区分の観点,具体的な判例の位置付けや評価の当否などについて活発な議論が行われた。

団体訴訟の制度設計

2014年7月26日(土)14時から18時まで,九州大学西新プラザにおいて,公開シンポジウム「団体訴訟の制度設計」を開催した。

はじめに,主宰の科研基盤Bの研究代表者である村上裕章九州大学大学院法学研究院教授から,本科研の研究目標・研究の具体的な進め方,本シンポジウムの狙いについて簡単な説明があった。

シンポジウムの模様次に,神戸大学大学院法学研究科の島村健教授から「環境法における団体訴訟」と題するご報告があった。環境法における団体訴訟を,帰結主義によるのではなく規範的に正統化する方法として,利益の性格への注目と,首尾一貫性のアプローチとが挙げられ,それぞれについて消費者利益との比較を踏まえて,団体訴訟の基礎理論の構築と,環境法における具体的制度設計の展望が示された。

さらに,東京大学大学院法学政治学研究科の斎藤誠教授から,「消費者法における団体訴訟──制度設計の考慮要素について」と題するご報告があった。斎藤先生のこれまでのご研究との接点を確認しながら,行政訴訟の参照対象の偏りを是正する必要性や,私訴との調整の問題が論じられ,さらに具体的な制度設計として民事差止請求権による構成との調整の問題が扱われた。

シンポジウムの模様休憩をはさんで,報告に対する2本のコメントが寄せられた。まず,東京大学大学院法学政治学研究科の宇賀克也教授から,団体訴訟を論じる前提としての行訴法9条2項の現状が指摘され,とりわけ主婦連ジュース訴訟のような事件で民事差止と行政処分とをどのように調整するかが課題となることが指摘された。また,団体訴訟の設計に当たっては,団体訴訟を適法性確保のための補完的手段と位置付ければ,代表民主政との緊張関係はクリアできることが示された。

次に,京都大学大学院法学研究科の原田大樹教授から,団体訴訟の理論的基礎付けの問題と制度設計の問題に関して2報告が指摘した論点の整理と,新たな類型論の提示による団体訴訟の制度設計論の活性化の方向性が示された。この枠組を用いて具体的な制度設計を検討する素材として,特定商取引法における団体訴訟の設計が扱われた。

さらに,東京大学大学院法学政治学研究科の山本隆司教授から,団体訴訟と法治国原理との関係,利益構造への着目と制度設計論への反映のあり方,行政主体による訴訟提起との関係の調整に関する論点が指摘された。これらのコメントに対して,島村教授・斎藤教授からの応答があり,その後フロアとの議論が行われた。

議論の中では,利益の性格とその法的な処理の方向性(少額被害に対する行政法上の手段の現状),万人原則による正統化の憲法上の根拠,団体訴訟において団体が正統化される必要性の根拠の問題,団体訴訟の設計における主張制限・判決効の問題などが取り上げられ,活発な議論が行われた。

公開シンポジウム「団体訴訟の制度設計」開催のお知らせ

2014年7月26日(土)14時から,九州大学西新プラザ中会議室において,公開シンポジウム「団体訴訟の制度設計」を開催します。これは,九州大学の村上裕章教授を研究代表者とする科研基盤B「現代行政の多様な展開と行政訴訟制度改革」が主宰するシンポジウムです。

シンポジウムにおける報告及びコメントは,以下の通りとなっています(詳細はチラシをご覧下さい)。

  • 趣旨説明(村上裕章・九州大学大学院法学研究院教授[研究代表者])
  • 「環境法における団体訴訟(仮)」(島村健・神戸大学大学院法学研究科教授)
  • 「消費者法における団体訴訟(仮)」(斎藤誠・東京大学大学院法学政治学研究科教授)
  • コメント
    宇賀克也・東京大学大学院法学政治学研究科教授
    原田大樹・京都大学大学院法学研究科教授
    ※質疑応答・ディスカッションの際に,山本隆司・東京大学大学院法学政治学研究科教授からもコメントを頂戴する予定です。

会場までの案内図はこちらをご覧下さい。

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